転職の年収交渉
会社が給料を決める材料と、角を立てない伝え方の文例
先に結論
年収の相談は、内定の条件を書面で受け取ってから、承諾の返事をする前に1回にまとめて伝えましょう。希望額の根拠は今の年収ではなく、会社が給料を決めるときに重視する経験と、同じ職種の相場で組み立てましょう。
この記事の目次
内定の連絡が届いて、書面の年収を見たら、今の年収とほとんど変わらなかった。もう少し上げてほしいと伝えたいけれど、欲張りだと思われたり、内定を取り消されたりしないかと考えると、言い出せない。
言い出しにくいのは、あなたが遠慮しすぎだからではありません。会社が何を見て転職者の給料を決めているのかが、外からは見えにくいからです。
この記事では、会社が転職者の給料を決めるときに見ている材料を国の調査で確かめ、希望額と最低ラインの出し方と、内定後に相談するメールの文例をまとめます。
今の年収を最も重視して給料を決める職場は、1割ほどしかない
厚生労働省が2026年9月25日に公表した「転職者実態調査」(令和7年)では、フルタイムの転職者を採用した事業所に、その人の給料を決めるときに最も重視した要素を聞いています。
最も多かったのは「これまでの経験・能力・知識」の38.4%で、2番目は「賃金の世間相場」の19.1%でした。応募する人の今の年収にあたる「前職の賃金」を最も重視した事業所は、9.2%でした※1。
今の年収が、給料の決め手になることは多くありません。ただ、前職の賃金を材料の1つにした事業所は27.0%あります。「今〇〇万円もらっているので」とだけ伝えるより、経験を中心に根拠を組み立て、同じ職種の相場も添えたほうが、会社が給料を決める材料とかみ合います。
額の相談をしないほうがよい場合
次のどれかに当てはまるなら、額の相談はせず、内訳や昇給のしくみを確かめてください。
- 提示額が、希望額も、同じ職種の相場の上限も上回っている:年収に固定残業代や賞与の見込み額がどれだけ含まれているかを確かめましょう。
- 経験のない職種に移る:会社が最も重視する経験を、その職種ではまだ示せません。入社後の評価の時期と昇給の決まり方を聞きましょう。
- すでに承諾の返事をした:入社前に条件を変えてほしいと頼むのはやめ、年収は入社後の評価の場で話しましょう。
希望額は相場と経験から、最低ラインは生活費から出す
| 材料 | 確かめ方 | ここで決まること |
|---|---|---|
| 今の年収 | 去年の源泉徴収票の「支払金額」を書き写す | 面接で答える今の年収 |
| 同じ職種の相場 | 同じ職種で近い経験を求める求人票を5件選び、年収の下限と上限を書き出す。月給だけの求人は、月給を12倍して賞与の目安を足す | 希望額を置く幅 |
| 自分の経験 | 求人票の「必須」と「歓迎」の条件のうち、数字の入った実績で示せるものに印を付ける | 「必須」だけなら幅の真ん中より下、「歓迎」も示せるなら真ん中より上(編集部の目安) |
今の年収が求人の幅の上限を上回るなら、その職種で年収を上げるのは難しいので、受け取った内定は、最低ラインと比べて承諾するかを決めましょう。
源泉徴収票の「支払金額」は、1年間に支払われた給与と賞与の総額で、税金や社会保険料を引く前の額です※2。
去年の途中で今の会社に入った人は、支払金額が今の会社の1年分になりません。今の会社の月給(残業代や手当を含む)の12倍に1年分の賞与の見込み額を足し、面接では「今の会社での年収の見込みは〇〇万円です」と伝えましょう。
最低ラインは、毎月の生活費と貯金から、賞与を除いた額面の月給で決めてください。生活費は手取りで考える額なので、給与明細の数字を使い、次の式で額面に直してください。
- 残る割合=1-(社会保険料+所得税)÷(総支給額-通勤手当)
- 最低ラインの月給=(生活費+貯金+今の住民税+余裕)÷残る割合
余裕は、あとで所得税や社会保険料が増える分を、先に見ておくためのものです。残る割合は今の明細から出しているので、月給が上がると、下がることがあります。2028年分からは、所得税の基礎控除が下がる予定でもあります※3。
余裕に決まった額は無いので、例えば月2,000円と仮に置き、新しい月給が今より大きく上がる人は多めにしてください。余裕を増やすと最低ラインは高めに出ますが、そのぶん安全側です。
書面の年収と比べるときは、賞与と残業代の見込みを除いて12で割り、月給に直してください。
明細の住民税は、前の年(1〜5月の明細は前の前の年)の年収で決まります。そのあと年収が大きく増えた人は、6月から上がる分を、式の今の住民税に足してください。
今と同じ職種で移るのに、今の年収より下がる額を提示されたら、承諾の返事をする前に、採用担当者に下がる理由を聞きましょう。
相談するのは、条件の書面を受け取ってから承諾の返事をする前
額の相談は、労働条件の書面を受け取ってから、承諾の返事をするまでのあいだに1回だけしましょう。
面接で希望年収を聞かれたときは、希望額と根拠を答えるだけにして、額の相談は持ち出さないでください。
転職エージェント経由で応募したなら、次の文例は会社に送らず、同じ内容を担当者に伝えて相談を頼みましょう。
内定のあと、メールで相談するときの文例
件名:ご提示いただいた年収についてのご相談(氏名)
内定のご連絡と労働条件の書面をいただき、ありがとうございます。貴社で働きたい気持ちは変わりません。
そのうえで、年収について1点ご相談させてください。ご提示の〇〇万円を、〇〇万円でご検討いただくことはできますでしょうか。
理由は2つあります。1つは、面接でもお話しした〇〇の経験を、配属予定の〇〇の業務で生かせると考えていることです。もう1つは、同じ職種で近い経験を求める求人の年収が、〇〇〜〇〇万円の幅で出ていたことです。
難しい場合は、入社後の評価の時期と、評価が給与にどう反映されるかを教えていただけますと幸いです。ご検討のほどよろしくお願いいたします。
(氏名)
メールは1通にまとめ、希望する額は1つだけ書いてください。面接で希望額を伝えたなら、メールの額もその額に合わせましょう。面接で伝えた額より高くするなら、面接のあとに分かった事実を理由に添えてください。
額が変わらなかったときは、提示の月給(賞与を除く)を最低ラインと比べてください。最低ライン以上なら、評価と昇給の答えも踏まえて承諾するかを決めましょう。最低ラインを下回るなら、生活費や貯金を見直して最低ラインを出し直せるかを考え、それでも下回るなら承諾を見送りましょう。
内定を取り消されないか心配なとき
厚生労働省のQ&Aでは、内定の段階で労働契約が成立しているなら、会社が内定を取り消すには、解雇と同じように合理的な理由が必要とされています※4。ただ、契約が成立しているか、取り消しが認められるかは、一人ひとりの事情で判断されます。承諾の返事をする前は、まだ労働契約が成立していないと判断されることもあり、その場合は、解雇と同じように合理的な理由が必要とする考え方が、そのまま当てはまるとは限りません。
契約が成立していなくても、取り消しの事情によっては、会社が損害賠償の責任を負うことがあるとされています。
心配なときほど、承諾の返事の前に1回だけ、「〇〇万円でご検討いただけないか」と相談の形で伝えてください。「〇〇万円でなければ入社しません」のように、条件として突きつける言い方は避けましょう。今の年収は、源泉徴収票の数字をもとに、そのまま伝えましょう。
万一、取り消しを告げられたら、会社にその理由を示してもらい、メールなど記録に残る形で受け取ってください。そのうえで、都道府県労働局や労働基準監督署の中にある総合労働相談コーナーに相談しましょう。無料で、予約はいりません※5。
想定の例で考える
例:29歳・法人営業。書面の年収は480万円(月給30万円と賞与の見込み120万円)で、今の年収の470万円とほぼ同じだった。 毎月の生活費と貯金から出した最低ラインの月給は、27万円だった。同じ職種で経験5年前後を求める求人5件の年収は、450〜620万円の幅だった。「歓迎」の条件の新規開拓は、売上を前年の1.2倍にした実績で示せる。 → この人は、幅の真ん中より上の560万円を希望額にして、承諾の返事の前にメールで相談します。書面の月給30万円は最低ラインの27万円を上回るので、この人は額が変わらなくても、評価と昇給の答えを聞いてから承諾するかを決めます。
次の一歩は、源泉徴収票の支払金額を書き写すこと
今週のうちに、去年の源泉徴収票を出して、「支払金額」の数字をメモに書き写してください。
内定が出て、書面の条件を内訳まで確かめるときは、内定2社で迷ったら|承諾前に書面と質問で条件を比べる方法の表を使ってください。
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