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競業避止の誓約書があると転職できない?署名前に見る期間・範囲・代償

PR2026年版公開 2026.10.31転職指南 編集部

先に結論

退職後に同業へ転職しないという約束が問題になるのは、主に誓約書や就業規則に書いてあるときで、書いてあっても無効とされることがあります。経済産業省の整理では、期間が1年以内で、禁止が業務や職種で絞られ、代償があるほど、有効とされやすい形です。

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この記事の目次
  1. 約束で退職後の転職を縛れるのは、主に書面に書いてあるとき
  2. 経産省は、判例から有効かどうかを見る点を6つに整理した
  3. 2020年の調査では、代償を決めた企業の約束は少ない
  4. 当てはまらない人・例外
  5. 例:誓約書を渡された32歳の法人営業と、次の一歩

退職の日が決まったころ、人事から1枚の書類を渡された。「退職後1年間は、競合他社へ就職しません」。署名欄の前で、ペンが止まる。

次に決めた会社は、いまの会社と同じ業界かもしれない。ここで署名したら、転職先を選べなくなるのではないか。かといって断ったら、退職の手続きが止まりそうで怖い。

この記事では、競業避止の誓約書で何が決まるのか、国の資料では、どんな約束が有効とされやすいのか、署名の前に見る期間・禁止の範囲・代償をまとめます。個別の判断は、書類を持って弁護士などに確かめてください。

約束で退職後の転職を縛れるのは、主に書面に書いてあるとき

競業避止とは、退職後に同業の会社へ転職したり、自分で競合する事業を始めたりしないという約束のことです。

厚生労働省は、退職後は職業選択の自由があるため、競業避止義務は限定的に解されるとしています。有効かどうかは、個々の事案ごとに最終的に裁判所が判断する、という整理です※1。

職業選択の自由は、憲法22条1項に書かれています。また、民法90条は、公の秩序や善良の風俗に反する契約を無効としています。退職後の約束が、働く人の自由を必要以上に縛るものなら、書面にあっても無効とされることがあります。

ただし、無効になるとは限りません。次に見る経済産業省の整理では、一定の条件がそろえば有効とされた判例もあります。

別の話として、前の会社から示された営業秘密を、不正な利益を得る目的や会社に損害を加える目的で、転職先で使ったり明かしたりすることは、誓約書の有無にかかわらず、不正競争防止法で禁じられています(2条1項7号。差止めは3条)。この記事で扱う競業避止は、そうした営業秘密の扱いとは別に、同業へ転職すること自体を縛る約束の話です。

経産省は、判例から有効かどうかを見る点を6つに整理した

経済産業省は、「秘密情報の保護ハンドブック」の参考資料で、判例をもとに、競業避止義務の契約が有効とされるかを見る6つの点を整理しています※2。

判例は個別の事情の差が大きく、規定の書き方だけで有効かどうかは言い切れない、とも書かれています。この整理は平成24年度の調査にもとづくため、それ以降の判例は入っていません。

見る点 有効とされやすい形 有効とされにくい形 誓約書で見る所
守るべき企業の利益 営業秘密や顧客との関係など、守る中身がはっきりしている 人脈や交渉の進め方など、一般的な経験の保護(p.8〜9) 何を守るための約束か書いてあるか
従業員の地位 秘密に触れる立場にあった 執行役員という高い地位でも、守るべき秘密に触れていなければ否定された例がある(p.10) 自分の仕事が、秘密に触れる内容だったか
地域 範囲が合理的 地域の限定が無いだけでは否定されない(p.11)が、広すぎると不利 地域の記載
期間 1年以内は肯定的な例が多い 2年に否定的な例がある。ソフトウェア事業で5年は長すぎるとされた(p.12、14) 期間は何か月か
禁止の範囲 業務内容、職種、在職中に担当した顧客への営業などに絞る 競合への転職を一般的・抽象的に禁じる(p.14〜15) 禁止の中身が絞られているか
代償措置 秘密を守る代わりの手当や、十分に高い賃金がある 何も無い。月3,000円の手当だけでは足りないとされた(p.16〜18) 手当や退職金の上乗せがあるか

まとめとして、同じ資料は、有効とされやすいのは「1年以内、業務や職種で限定、代償あり」の形、されにくいのは「2年超、禁止範囲が抽象的、代償なし、不要な従業員との契約、広い地域制限」の形としています(p.19)。

2020年の調査では、代償を決めた企業の約束は少ない

では、実際に企業が結んでいる約束は、経産省の整理に照らすとどうなのでしょうか。IPA(情報処理推進機構)が2020年に行った調査があります。16,000社に郵送し、2,175社が答えました※3。2024年版の調査も出ていますが、この記事では、中身を確かめられた2020年版を使います。数字は2020年の調査時点のものです。

この質問に答えた2,127社のうち、従業員と競業避止の契約を「締結していない」企業は66.1%でした。残りは、契約で決めた退職後の期間の区分と「わからない」に分かれ、半年未満が2.9%、半年から1年未満が3.4%、1年から2年未満が3.1%、2年以上が1.8%、期間の定め無しが9.1%、「わからない」が13.8%です(どれも2,127社全体に対する割合。p.50 図2.2-73、n=2,127)。

役員・従業員と競業避止の契約を結んでいると答えた企業に、期間のほかに何を取り決めているかを聞いた結果が、次のとおりです(p.51 図2.2-75、n=572。2,127社に聞いた質問とは別の質問で、母数が違います)。

  • 業務内容・職種を限定している:32.5%
  • 期間のみを決めている:26.9%
  • 業務内容・職種を限定していない:22.6%
  • 地域を限定していない:14.5%
  • 対価や代償措置を取り決めている:5.8%
  • 地域を限定している:4.5%
  • わからない:22.0%

契約を結んでいる企業のうち、代償を決めているのは5.8%、およそ17社に1社です。業務や職種を限定していないものも、22.6%ありました。この調査は企業側の回答で、その約束が裁判で有効とされるかどうかを調べたものではありません。ただ、経産省の整理では「代償なし」「範囲が抽象的」は有効とされにくい側なので、渡された誓約書がそうした形である可能性は、小さくありません。

そこで、誓約書を渡されたら、経産省の整理のうち、書面から読み取りやすい次の点を、最初に見てください。

  1. 期間:何か月か。1年以内か、2年を超えるか、定めが無いか。
  2. 禁止の範囲:「競合他社への就職」とだけ書かれているか、担当した業務や顧客に絞られているか。
  3. 代償:禁止の見返りとなる手当や上乗せが、書面や就業規則に書かれているか。

当てはまらない人・例外

次のような人は、有効とされやすい側に入る可能性があります。同じ業界の同じ職種で、顧客情報や技術情報など、秘密に触れる仕事をしていた人です。期間が1年以内で、禁止が担当業務や担当顧客に絞られ、手当などの代償もあるなら、約束を守る前提で転職先を考える必要があります。

また、署名を断れば自由になる、とは限りません。誓約書に署名していなくても、就業規則に競業避止の定めがあり、その規則が有効なら、問題になることがあります。就業規則の該当の条も、あわせて確かめてください。

退職金の規程に、競業避止に違反したら退職金を減らす、または支払わないという定めがあることもあります。こうした定めが有効かどうかも、個別の事情で判断されるので、署名の前に退職金の規程も確かめてください。

最後の判断は、書類を見ないとできません。法的な判断は、弁護士に相談してください。弁護士に相談する前に状況を整理したいときは、厚生労働省の総合労働相談コーナーが、無料・予約不要で、個別の労働の相談を受けています。ただし、弁護士のように法的な判断を示す窓口ではありません※4。

例:誓約書を渡された32歳の法人営業と、次の一歩

これは想定の例です。

32歳の法人営業の人が、退職の1週間前に、次の書類を渡されたとします。「退職後1年間、競合他社への就職、および競合事業への従事をしません」。手当や退職金の上乗せの記載はありません。

期間・禁止の範囲・代償を見ると、次のようになります。

  • 期間:1年。経産省の整理で、肯定的な例が多い範囲です。
  • 禁止の範囲:競合への就職を広く禁じていて、抽象的です。有効とされにくい側です。
  • 代償:記載なし。有効とされにくい側です。

署名の前に、この人は、転職先で同じ顧客を担当しそうなら弁護士に相談し、そのうえで人事へ、書面で、禁止の範囲と代償を確かめます。「禁止の範囲を、私が担当していた顧客への営業に絞ることはできますか」「この制限に対する手当や退職金の上乗せはありますか」。返事は、メールなど、あとで見返せる形でもらいます。範囲を絞ってもらうと、その範囲の約束は有効とされやすくなり、守る必要が高まります。

その上で、この人は、署名するかどうかを決める前に、書類と返事を持って弁護士に相談します。署名を急かされたら、署名の期限を人事に聞き、それまでに弁護士に確かめると伝えます。焦って署名するほうが、あとで困ります。

署名を断っても、それで退職できなくなるわけではありません。期間の定めのない雇用なら、民法では、退職の申し入れから2週間で雇用が終わると定められています※5。契約期間が決まっている有期契約の人は、扱いが違います。

次の一歩は、書類の写しに○×を付けることです。誓約書を渡されたら、その場で署名せず、写真か写しを手元に残してください。そして、期間・禁止の範囲・代償について書面の内容を書き出し、経産省の整理で有効とされやすい側なら○、されにくい側なら×を付けてください。○は守る必要が高い形という意味で、署名してよいという意味ではありません。×が付いた所は、人事への確認の質問になります。

退職の準備は、在職中の転職活動の段取りとあわせて考えておくと、日程の無理が出にくくなります。平日の面接の時間の作り方は、在職中の転職活動の段取りで扱っています。

出典・注記(5件)

※1 厚生労働省 労働基準局「競業避止義務の明確化について」令和6年4月、規制改革推進会議WG資料 p.3 ↩

※2 経済産業省「秘密情報の保護ハンドブック」参考資料5。平成24年度(2012年度)の委託調査報告書の抜粋 ↩

※3 IPA「企業における営業秘密管理に関する実態調査2020」令和3年3月 ↩

※4 厚生労働省「総合労働相談コーナーのご案内」 ↩

※5 民法第627条第1項 ↩

数字は、出典の定義(誰の数字か・いつの数字か)のまま使っています。計算した数字には「計算の例」と書いています。編集方針

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